ドイツには「屋根も壁もない幼稚園」が約2,000校あるって知っていますか?

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「子どもにはもっと自然に触れさせたほうがいい」とは、よく聞きますよね。でも、雨の日も雪の日も、毎日朝から夕方まで、ずっと外で過ごす幼稚園があるとしたら、どう思われますか?

ドイツには、「屋根も壁もない幼稚園」が約2,000校あります。Waldkindergarten(ヴァルトキンダーガルテン、森の幼稚園)と呼ばれていて、3歳から6歳の子どもたちが、一日中森の中で過ごします。プラスチックのおもちゃはなく、木の枝や泥、木の葉が遊び道具です。今日は、この一見ちょっと驚く教育のあり方について、世界の子育ての一例としてのぞいてみましょう。

「屋根も壁もない幼稚園」って、本当に?

はい、本当に屋根も壁もありません。ドイツ連邦自然・森林幼稚園協会(BvNW)の公式サイトでも、まさに「Ein Kindergarten ohne Türen und Wände(扉も壁もない幼稚園)」という表現で紹介されています(以下、イラストはイメージ)。

ドイツの屋根のない幼稚園

とはいえ、完全に何もないわけではありません。ドイツの規則では、ひどく悪い天気のときに避難できる暖房付きの小屋を、森の近くに用意することが義務付けられています。多くの場合、車輪付きの木造の小屋(Bauwagen、バウヴァーゲン)を森の入り口に置いていて、強風の日や嵐の日の避難所、道具置き場、コンポストトイレを兼ねています。典型的な一日はこんな感じです。

時間 内容
8:30〜9:00 親が森の入り口まで子どもを送り届ける
午前中 森の中で自由に遊ぶ、木登り、虫の観察、歌、おやつタイム
12:30〜13:00 親がお迎え(同じ場所で)
体制 3〜6歳の混合年齢、子ども15〜20人に対して保育士2名+研修生1名
天候 雨でも雪でも開園(嵐や倒木の危険があるときのみ閉園)

イギリスのForest School団体Creative STAR Learningのレポートによれば、これがドイツ全土の標準的なスタイルだそうです。「雨でも雪でも、毎日森に行く」というのが、Waldkindergartenの大原則なんですね。

始まりはデンマーク、ドイツでブレイク

ルーツをたどると、ドイツではなくデンマークにたどり着きます。1950年代、エラ・フラタウさん(Ella Flatau)という一人の母親が、自分の子どもと近所の子どもたちと毎日のように森に出かけていました。すると、近所の親たちから「うちの子も連れていって!」と頼まれるようになり、自然発生的に「歩く幼稚園(Walking Kindergarten)」というかたちが生まれたのです。

これが評判になって、デンマーク全土に広まりました。今ではデンマークの幼稚園の約20%が「skovbørnehaver(スコウベアネハーヴァ、森の幼稚園)」として運営されているほどです(UNESCO Courierの記事Forest School Foundationの歴史記事に詳しい経緯があります)。

ドイツに渡ったのは1960年代のこと。最初の私設Waldkindergartenは1968年にヴィースバーデンに作られましたが、なかなか公的な認可がもらえませんでした。正式に州が認可した第一号が誕生したのは、ようやく1993年5月3日。場所はデンマークとの国境にある北部の街フレンスブルクでした。

そこから、ドイツでの広がりは予想以上のスピードでした。

ドイツ国内のWaldkindergarten数
1993年 1校(初の公認校がフレンスブルクに誕生)
2003年頃 約350校
2005年 約450校
2017年末 1,500校超
2022年9月 2,000校超
現在(BvNW登録ベース) 約3,000校(自然系・森系・浜辺系の合計)

※出典:Bundesverband der Natur- und Waldkindergärten(ドイツ連邦自然・森林幼稚園協会)Schutzgemeinschaft Deutscher Waldほか

ドイツの全幼稚園は約58,500校(連邦統計局データ)あるので、Waldkindergartenはそのうち3〜5%。決して主流ではないですが、待機児童が出るほどの人気のある選択肢になっています。

研究データ:森の子は、何が違うのか

「楽しそうだけど、本当に大丈夫?小学校に上がってから困らない?」というのは、当然の疑問ですよね。実は、ドイツの親御さんたちもまったく同じ心配をしていて、それに応える形で複数の研究が行われてきました。

もっとも有名なのが、ハイデルベルク大学のペーター・ヘフナー博士(Peter Häfner)が2002年に発表した博士論文「Natur- und Waldkindergärten in Deutschland(ドイツの自然・森の幼稚園)」です。Waldkindergartenを卒園した子と、普通の幼稚園を卒園した子の小学校1年生での様子を、教師による評価で比較した研究です。

結果は、ちょっと興味深いものでした。

領域 森の幼稚園卒の子の評価
集中力・忍耐力 明らかに高い
学習意欲・モチベーション 高い
社会性・協調性 高い(衝突が少なく、平和的に解決する傾向)
音楽・総合学習(Sachunterricht) 良好
細かい手の動き(微細運動) やや劣る
色・形・大きさの識別 やや劣る

ヘフナー博士の研究のまとめを読むと、「森の子は、グループに入りやすく、他の子に配慮があり、衝突を平和的に解決し、攻撃的な行動が少ない」と書かれています。一方で、「指先の器用さや、形・色の細かな識別では普通の幼稚園の子に劣る」という弱点も率直に書かれていて、これがフェアでいいなと思います。

ロラント・ゴルゲス博士(Roland Gorges)の1999年の研究でも、ほぼ同じ傾向が確認されています(BvNWの研究レビュー資料「Wald macht schlau…」でも引用されている定番研究です)。「Waldkindergartenの卒園児は、教師から見て、ほぼ全領域で平均以上」というのがゴルゲス博士の結論でした。

デンマークでも同じような研究があります。コペンハーゲン大学が2013年から2017年に行った大規模調査「TEACHOUT」では、「森での授業を受けた子は、予測不可能な日常への対応力が高まり、学習意欲と読書能力も向上した」と報告されています。

森が育てているのは「自分で判断する力」

研究結果を見ていて気づくのは、Waldkindergartenが特別に何かを教え込んでいるわけではない、ということです。むしろ「教えない」「介入しない」ことを大切にしているんです。

たとえば木に登っていい高さは、自分で決めるのがWaldkindergartenの基本ルール。先生は見守りますが、「危ないから降りなさい」と先回りして止めることはしません。子ども自身が「ここまでは大丈夫」「これ以上は怖い」を判断する経験を積み重ねていくのです。

デンマークのコペンハーゲン大学の研究者カレン・バルフォド氏は、UNESCOの記事でこう語っています。

子どもたちは『リスクのある遊び』から恩恵を受けます。主観的に『何か危ない』と感じるその境界線を体験することで、彼らの強さは育つのです。森や緑の中で遊ぶ子どもたちは、そうでない同年代の子どもたちよりも、身体的にも精神的にも健康だということが分かっています。

— カレン・セイエロー・バルフォド(コペンハーゲン大学・教育学研究者)

ドイツのSchutzgemeinschaft Deutscher Wald(ドイツの森の保護協会)のサイトでは、Waldkindergartenの教育的意義が次のようにまとめられています。「制限のない空間、静けさ、そして時間が、子どもの感情の安定、集中力、バランス感覚を育てる」。これって、現代の都市部の子育て環境とは正反対ですよね。

運営は誰がしているの?お金は?

気になるのが、こうした幼稚園が誰によってどう運営されているのかという点です。

2013〜2014年にドイツ野生動物財団(Deutsche Wildtier Stiftung)とフライブルク大学が共同で行った調査(全国1,000校に質問票を送り、471校から有効回答)によると、ドイツのWaldkindergartenの運営主体は次のようになっています。

運営主体 割合
親の会・NPO・任意団体 約73%
公的機関(自治体など) 約23%
その他 約4%

つまり4分の3は親や住民の自発的な動きから始まっているのです。「うちの近くにもWaldkindergartenが欲しい」と思った親たちが集まって団体を作り、自治体に申請して認可を受け、運営している。日本のフリースクールに少し近い構造かもしれません。

気になる費用ですが、ドイツでは公的補助の対象になっている公認のWaldkindergartenが多く、月額の保護者負担は100ユーロ前後(約1万6,000円)と意外に安いんです(Mothering Forumで紹介されたベルリンのWaldkita「Robin Hood」の例)。これは普通の幼稚園とほぼ同じです。「お金持ちの特殊な選択肢」ではなくて、むしろ普通に選べる選択肢の一つになっている、というところがポイントです。

世界に広がるWaldkindergarten

このスタイルは今、世界中に広がっています。各国の状況をまとめてみました。

状況
デンマーク 発祥の地、約1,000校。幼稚園の20%が森系
スウェーデン 「Skogsmulle」「I Ur och Skur(雨でも晴れでも学校)」として広く普及
ノルウェー 幼稚園の約10校に1校が屋外型(マイナス温度でも)
ドイツ 2,000〜3,000校
オーストリア 23校
アメリカ 約240校(2016〜2017年で66%増の急成長)
カナダ 約45校(主にBC州・オンタリオ州)
日本・韓国 アジアではこの2国が先行的に取り組んでいる

日本にも実は「森のようちえん全国ネットワーク連盟」という組織があり、加盟する園が全国に300以上あります(英語のサイトでは「日本と韓国がアジアの先頭ランナー」とよく紹介されています)。日本ではドイツほど主流にはなっていませんが、選択肢として確実に増えてきている分野なんです。

日本で森のようちえんを取り入れるなら

「うちもこれをやってみたい!」と思った方も、いきなりWaldkindergartenに通わせなくても大丈夫です。週末や夏休みに少しずつ取り入れるだけでも、得られるものはたくさんあります。

ドイツのWaldkindergartenの考え方を、日常に応用するならこんなアイデアがあります。

  • 雨の日も外に出てみる(レインコートと長靴があれば、雨は意外と楽しい)
  • プラスチックのおもちゃ以外の素材で遊ぶ時間を作る(木の枝、葉っぱ、石、泥)
  • 「危ないから止める」を、少しだけ我慢する練習をする(自分で危険を判断する経験を奪わない)
  • 近所の公園や森で、目的なくぶらぶら過ごす時間を作る
  • 地元の「森のようちえん」が開く週末プログラムに参加してみる

ドイツのWaldkindergartenが教えてくれるのは、「教えないこと」「介入しないこと」「自分で判断する経験をたくさん積むこと」が、結果として子どもの集中力や社会性を育てるということ。これは、つい先回りして手を貸してしまいがちな現代の子育てに、ちょっとした問いかけをくれる話だなと思います。

「世界には、こんな育て方をしている国もあるんだ」。そう思うだけで、私たちの選択肢も少し広がるかもしれません。

よくある質問

Q. 雨や雪の日も外って、子どもが風邪をひいたりしませんか?

A. ドイツのWaldkindergartenの保護者や運営者がよく言うのは、「適切な服装さえあれば、子どもはむしろ強くなる」というフレーズです。実際、ドイツの保育研究では、Waldkindergartenの子どもたちはむしろ免疫力が高まるという傾向が報告されています。ただし、ダニ(Borrelioseなどの感染症リスク)には対策が必要で、ドイツでも保護者向けの注意事項として案内されています。

Q. 微細運動の発達が遅れるのは心配です。小学校で困りませんか?

A. ヘフナー博士の研究でも指摘されている弱点ですが、博士自身は「Waldkindergartenの教育者が意識して微細運動の機会を増やせば改善できる課題」と書いています。実際、最近のドイツのWaldkindergartenでは、避難小屋の中でハサミ、絵筆、編み物、木工などの細かい作業の時間を意図的に設けているところが多いです。

Q. 日本でも「森のようちえん」に通わせられますか?

A. はい、可能です。日本には「森のようちえん全国ネットワーク連盟」という組織があり、全国300以上の加盟園が活動しています。ただしドイツのように公的補助が手厚いわけではないため、私立扱いの園が多く、費用負担はやや高めになります。週末プログラムや夏休みキャンプという形で部分的に体験させる選択肢もあります。

参考にした情報源

この記事を書くにあたって、英語とドイツ語の以下の情報源を参考にしました。もっと深く知りたい方はぜひ元の資料もチェックしてみてください。

PULMO編集部

ママ向けオンラインコミュニティ「PULMO」編集部です。子育てに役立つ情報を、お届けします。

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