2週間で180万円?それでも韓国のママの9割が利用する「産後調理院」とは

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「出産後のママが、退院してすぐに家事も育児もこなしている」。日本ではなんとなく当たり前の光景ですよね。でも、お隣の韓国では事情がまったく違います。出産したお母さんの85.5%が、退院後すぐに「サヌジョリウォン(産後調理院)」という施設に2週間ほど滞在するんです。日本の利用率は10.9%。10倍近い差があります。

日韓比較

「家ではなく施設で産後を過ごす」という発想自体、日本ではあまり馴染みがないかもしれません。しかも費用は2週間で平均372万ウォン(約40万円)、ソウル江南区の高級室になると2週間で1,732万ウォン(約180万円)、最高クラスでは5,000万ウォン(約540万円)を超えるところまであります。それでも韓国のママたちは「人生の必要経費」として利用しているんです。今日は、世界の産後ケアの一つの形として、韓国の産後調理院文化をのぞいてみましょう。

※出典:韓国保健福祉部「2024年産後調理実態調査」ニッセイ基礎研究所「日本の産後ケアの現状と課題」

「サヌジョリウォン」って、どんな場所?

「サヌジョリウォン」というのは韓国語の発音で、漢字で書くと「産後調理院」です。日本語の「調理」とは違って、韓国語の「チョリ」は「身体を整える」という意味。つまり「産後に身体を整える施設」という名前なんですね。

具体的にどんな場所なのか、まとめてみました。

項目 内容
入所のタイミング 出産後、産院を退院してすぐ(自然分娩なら出産2〜3日後)
滞在期間 平均2週間(2024年実態調査:平均30.7日の産後ケア期間中)
部屋のスタイル ホテルのような個室、ソファ・テレビ・冷蔵庫つき
食事 1日3食+おやつ、ワカメスープなど産後回復食を中心とした韓国伝統食
赤ちゃんのお世話 看護師が24時間体制で新生児室で見てくれる(夜間も任せられる)
ケアサービス 乳房マッサージ、骨盤矯正、皮膚ケア、産後ヨガ、授乳指導
追加プログラム 産後うつ予防のフラワーアレンジメント、笑い療法など
ママの基本ルール 2時間おきの授乳タイム以外は、ひたすら休む

※出典:2024年産後調理実態調査結果(韓国保健福祉部)Yahoo!ニュース「日本人も知っておきたい海外の産後ケア事情」(重見大介医師)

「子どもをこんなに長く看護師に預けて大丈夫?」と思うかもしれませんが、韓国では「産後2週間こそ、ママが一生の身体の基礎を作る期間」という認識が、社会全体で共有されています。「サヌジョリ ルル チャルモタミョン ピョンセン コセンハンダ(産後ケアを失敗すると、一生苦しむ)」という言葉が古くから言い伝えられてきたほどです。

衝撃の数字:利用率と費用

韓国保健福祉部が2025年2月に発表した「2024年産後調理実態調査」の結果は、なかなかの衝撃でした。

利用率推移

2013年に38.3%だった韓国の産後調理院利用率が、わずか11年で85.5%まで急増しています(デイリーグッドニュース報道)。一方、日本の産後ケア事業の利用率は2022年時点で10.9%(ニッセイ基礎研究所レポート)。10倍近い差があるんですね。

気になる費用ですが、これも大きな話題になっています。韓国保健福祉部が2026年3月に発表した「2025年下半期全国産後調理院現況」の数字です。

エリア・部屋タイプ 2週間の平均利用料 日本円換算
全国 一般室の平均 372万ウォン 約40万円
全国 特室の平均 543万ウォン 約59万円
ソウル 特室の平均 810万ウォン 約88万円
ソウル江南区 特室の平均 1,732万ウォン 約188万円
特室の最高価格 5,040万ウォン 約548万円
公共(自治体運営)産後調理院 平均 175万ウォン 約19万円

※出典:ニュースシス2026年3月13日報道JIBS報道

産後施設費用

江南区の高級施設で2週間に約180万円、最高クラスで約548万円というのは、日本の感覚だとちょっと信じられない金額ですよね。韓国の会社員の平均月収を超える金額が、たった2週間で消える計算になります。

1996年に始まり、30年で文化になった

意外なことに、産後調理院の歴史はそんなに長くありません。最初の施設が韓国に誕生したのは1996年10月、仁川広域市南東区萬寿洞のことです(産後ヘルパー株式会社の現地調査レポート)。

それまでは、韓国でも他の多くの国と同じように、家庭で実母や姑が産後ケアをするのが伝統でした。1990年代後半に帝王切開が急増したことと、創業ブームの時期が重なり、1997年末から本格的に「産後調理院」という業種が広がります。

普及スピードがすごかったんです。

出来事
1996年10月 仁川市に第1号産後調理院が誕生
1997年末〜 業種として全国に拡散開始
2009年 全国418施設
2013年 利用率38.3%に到達
2016年 全国612施設、ピーク時
2024年12月 全国472施設(うち民間447、自治体運営25)、利用率85.5%

※出典:韓国保健福祉部「2024年産後調理院現況」産後ヘルパー株式会社「韓国の産後ケア市場や業界動向の調査結果」

面白いのは、施設数自体は2016年の612をピークに減っているのに、利用率は逆に増え続けていること。これは少子化で出産数自体が減っているのと、「産後調理院に行くのが当たり前」という社会認識が広がったからだと分析されています。

なぜ韓国のママは「ここまで使う」のか

「日本も核家族化してるのに、なんで韓国だけこんなに広がったの?」と疑問が湧いてきますよね。理由はいくつかあります。

まず、家族の介入が「むしろ精神的負担」と感じられていることです。産婦人科医・重見大介氏のレポートでも、韓国の家庭文化は出産・育児に家族の介入が比較的大きく、産後ケアを実家や姑にお願いすると介入や干渉が心理的負担になる事例が少なくないと指摘されています。「外部の助けを借りるべき」という共通認識はあるものの、それが家族ではなく「専門施設」に向かう、という流れが韓国独特なんですね。

2024年の保健福祉部調査では、産後調理の主な目的について、こう答えられています。

産後調理院の目的は

※出典:2024年産後調理実態調査(韓国保健福祉部)

9割以上の韓国ママが「産後はとにかくママの身体の回復が最優先」と考えていることが分かります。「赤ちゃんとの愛着形成」よりも、まず「自分の身体を整える」を優先するんですね。これは日本の「赤ちゃんとの絆を深める時期」という産後イメージとは、ちょっと違うアプローチかもしれません。

でも、いいことばかりじゃない

もちろん批判もあります。韓国国内でも、産後調理院に対する課題はたくさん指摘されています。

2026年3月の韓国メディアJIBSの記事では、こう報じられています。

2週間の利用料が、自動車1台の価格や、賃貸住宅の保証金の一部に相当する水準にまで達しています。産後調理院がプレミアム消費の形態として位置づけられ、少子化環境の中で出産そのものの意味が大きくなり、より良い施設とサービスを選ぼうとする傾向が強化されているという分析もあります。

— JIBS報道(2026年3月14日)

主な批判点をまとめると、こんな感じです。

  • 価格の急騰:2023年から2026年で2週間100万ウォン値上がりした施設も
  • 「必須」プレッシャー:行かないと「ケチ」と思われる社会的圧力
  • 感染症リスク:多数の新生児が同じ部屋にいることで、ロタウイルスなどの集団感染事例
  • 母子分離:赤ちゃんと触れ合う時間が少なく、愛着形成への影響を懸念する声
  • 食事の偏り:ワカメスープばかりで、施設を出るときに「ワカメスープから解放されるのが一番嬉しい」と冗談も
  • 民間が95%:公共産後調理院は全国でわずか25施設、地方では選択肢が限られる

2024年の保健福祉部調査でも、産婦が政策に最も求めるものとして「費用支援(51.3%)」が圧倒的1位でした。「便利で必要だけど、高すぎる」という本音が透けて見えます。

世界に広がる韓国式産後ケア

興味深いことに、この「韓国式産後調理院」モデルは、世界に輸出されています。

状況
中国 「月子中心(ユエズジョンシン)」として広がる。2016年時点で約820施設、前年比19%増
台湾 「月子中心(ユエズジョンシン)」が定着、ホテル並みのサービス
アメリカ ニューヨークなどに韓国式産後ケアセンターが進出
日本 2019年母子保健法改正で産後ケア事業が法制化、徐々に施設が増加中
マレーシア・シンガポール 韓流の影響で韓国式施設が散発的に存在

※出典:ウィキツリー「産後調理文化は韓国だけにあるのか?」Yahoo!ニュース「日本人も知っておきたい海外の産後ケア事情」(重見大介医師)

女優の小雪さんが韓国で出産して産後調理院を利用したことが話題になり、日本でも産後ケアへの関心が高まりました。実は日本にも、韓国式の産後ケアホテルが少しずつ増えてきています。「マームガーデン」「ザ・ベル」など、韓国式の長期滞在型ケア施設が首都圏を中心に展開されています。

日本のママに伝えたいこと

韓国の産後調理院文化を見ていて感じるのは、「産後の女性は、特別なケアを受けるべき存在」という社会全体の合意がある、ということです。

日本では、出産後3〜5日で退院、すぐに新生児のお世話と家事が再開、夫は通常勤務、実母も高齢化や仕事で頼れない…というのが現実的なシナリオになりがちです。「お母さんなんだから頑張って当然」という空気が、いまだに根強くあるかもしれません。

韓国の高額な産後調理院をそのまま日本に持ってくるのは、現実的にも経済的にも難しい話です。でも、「産後2週間は、ママの身体が一生の基礎を作る時期」という発想自体は、日本でも取り入れる価値があるんじゃないかなと思います。

今の日本でできることを少し整理してみます。

  • 住んでいる自治体の産後ケア事業を調べてみる(母子手帳交付時に確認するのがベスト)
  • 産後ヘルパー、ベビーシッター、家事代行を「ぜいたく」ではなく「必要経費」と捉える
  • パートナーや家族と「産後2週間はママは寝るだけ」という合意を事前に作っておく
  • 日本にも増えてきた「産後ケアホテル」をリサーチしてみる
  • 「自分でやらなきゃ」という気持ちを、少しだけ手放してみる

韓国のママの85.5%が「専門家のケアを受けるのは当然」と考える社会と、日本の「お母さんが頑張る」社会。どちらが正解というわけではないですが、世界に目を向けることで、自分の選択肢が少し広がるかもしれません。「産後はもっと自分を労ってもいいんだ」と気づくだけでも、子育てのスタートは少し変わるはずです。

よくある質問

Q. 韓国の産後調理院は外国人でも利用できますか?

A. はい、可能です。韓国で出産する場合はもちろん、産後ケア目的で韓国を訪れる「産後調理ツーリズム」も近年増えています。日本人女性が韓国で産後調理院を利用するケースもあり、女優の小雪さんの利用が話題になりました。費用は健康保険が使えないため全額自己負担になりますが、英語・日本語対応の施設もソウルを中心に存在します。

Q. 日本でも韓国式の産後ケア施設はありますか?

A. はい、増えてきています。「マームガーデン葉山」「マームガーデンHAYAMA」などが代表的で、長期滞在型の本格的な韓国式ケアを提供しています。費用は2週間で50万円〜100万円程度と、韓国本国とほぼ同水準です。また、自治体が運営する「産後ケア事業」を使えば、宿泊型のケアを1日数千円〜数万円で利用できる場合もあります。住んでいる自治体の母子保健課に問い合わせてみてください。

Q. 韓国でなぜここまで産後調理院文化が定着したのでしょうか?

A. いくつかの要因が重なっています。第一に、「産後ケアを失敗すると一生苦しむ」という伝統的な認識。第二に、1990年代の核家族化と帝王切開の急増。第三に、家族(特に姑)の介入が心理的負担になる文化的背景。第四に、出産そのものが少子化で「特別なイベント」になっていること。これらが重なって、わずか30年で「ほぼ全員が利用する」文化に育ちました。

Q. 産後2週間も赤ちゃんと離れて、愛着形成は大丈夫なのでしょうか?

A. これは韓国国内でも議論があるポイントです。一方で、産後調理院では授乳のたびに赤ちゃんが部屋に運ばれてくるため、完全に離れているわけではありません。また、「ママが疲弊している状態より、しっかり休んだママが赤ちゃんと向き合うほうが、長期的には良好な関係を築ける」という考え方もあります。愛着形成は産後2週間だけでなく、その後の数年間で形成されるものなので、産後調理院利用と愛着の質に明確な相関を示す研究は、現時点ではありません。

参考にした情報源

この記事を書くにあたって、韓国語と日本語の以下の情報源を参考にしました。原典のデータをもっと詳しく見たい方は、ぜひ元の資料もチェックしてみてください。

PULMO編集部

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