東京23区で、公立小学校の卒業生のうち何割が私立中学に進学しているのか。プルモ編集部で、東京都教育委員会が公表している進路データ(5年分・23区別)をすべてダウンロードし、区ごとの私立中学進学率を独自に集計・分析しました。
最新データ(2025年3月卒業)で1位は文京区の48.5%、最下位は江戸川区の10.6%。同じ23区内でも約38ポイントの開きがあります。
ただ、この記事で伝えたいのは「1位がどこか」だけではありません。5年分のデータを掛け合わせてみると、単年のランキングだけでは見えない構造的な変化がいくつも浮かび上がってきました。
この集計で初めてわかったことは、大きく3つあります。
- 卒業者が増えて進学率も上がっている「本物の加熱」が起きている区は23区中8つだけだということ
- 中央区では大規模マンションへの人口流入によって進学率が「希釈」されているということ(率は下がっているが、受験している子どもの実数はむしろ増えている)
- 東京都全体の私立中学進学率が令和5年度の20.1%をピークに、令和6年度に初めて低下に転じたということ
お子さんの中学受験を考えているママ・パパや、教育環境を重視して住むエリアを検討中の方に、判断材料のひとつとして活用していただけたらうれしいです。
23区 私立中学進学率ランキング(2025年3月卒業・最新)
まず全体像です。令和6年度(2025年3月卒業)の公立小学校卒業者について、都内の私立中学への進学率を高い順にグラフにしました。40%超を赤、30%台をオレンジ、20%台を青、それ以下をグレーで色分けしています。
出典:東京都教育委員会「令和7年度 公立学校統計調査報告書【進路状況調査編】」より編集部作成
文京区は国立中学を含めた「受験率」で50.1%。公立小学校の卒業生の2人に1人以上が中学受験をして進学している計算です。お子さんのクラスの半分が受験する環境、というイメージですね。
年収が高い区=進学率が高い区? 文京区だけ事情が違います
進学率の格差は、各区の世帯年収とおおむね連動しています。総務省の課税状況データでは港区(約1,397万円)が年収1位、千代田区(約1,121万円)が2位。進学率ランキングの上位区と顔ぶれが重なります。
ただし文京区は年収ランキングでは6位(約750万円)なのに、進学率は断トツの1位です。これが意味しているのは、以下のようなことだと考えています。
- 文京区には「教育環境を重視して、あえてこの区を選んで住んでいる」ファミリーが集中しています
- 年収は港区ほど高くなくても、家計の中で教育費の優先度が極めて高いご家庭が多い
- つまり進学率の高さは「お金持ちが多いから」だけでは説明できず、「教育にお金をかけるという意思決定をしている家庭が集まっているから」という要因が大きい
中学受験には塾の費用だけで3年間で200〜300万円、進学後の私立中学の学費が年間100〜150万円。決して小さな金額ではありませんが、文京区のデータは年収の絶対値よりも「教育への優先度」が進学率を左右することを示しています。
5年間の推移を見ると、上位の序列が入れ替わっている
1年分のランキングだけだと「文京区が1位」で話が終わってしまいますが、5年間の推移を追うと動きがはっきり見えてきます。
R2=令和2年度(2021年3月卒業)〜R6=令和6年度(2025年3月卒業)。東京都教育委員会の各年度報告書より編集部作成
5年前のトップ3は「文京区>中央区>港区」でしたが、最新では千代田区が2位に浮上し、中央区が5位に後退しています。注目すべきポイントを3つにまとめました。
- 千代田区が+8.4ポイントの急上昇(35.8%→44.1%)。番町・麹町エリアの再開発で高所得ファミリーの流入が加速しています。区内に暁星中学校や白百合学園中学校など名門校が集中していることも追い風で、人が増えて率も上がる「本物の加熱」が起きています
- 中央区は-0.6ポイント低下(40.2%→39.6%)。ただし、これは受験する家庭が減ったわけではありません。晴海フラッグ等の大規模マンションで卒業者が5年で+30%も増えたのですが、その中に「受験しない家庭」が多く含まれていて、率が「希釈」されたという構造です
- 文京区は49.5%(R4)がピーク。国立を含めた受験率は50.1%に達しましたが、私立単独では50%の壁を超えられず、頭打ちの兆しが出ています
中央区の「希釈」は、今後江東区(有明・豊洲のタワーマンション群)でも起きる可能性があります。江東区は卒業者がすでに約4,000人と多く、湾岸部の開発がさらに進めば、同じように母数が増えて率が下がるケースは十分に考えられます。
「本物の加熱」が起きている区は、23区中8つだけ
中学受験ブームは23区全体で起きているように見えますが、本当にそうでしょうか。「卒業者が増えている(=ファミリーが流入している)のに、進学率も上がっている」という条件で絞ると、該当するのは8区だけでした。
横軸:R2→R6の卒業者数増減率(%)。縦軸:同期間の私立中学進学率の変動(pt)。赤=加熱、青=希釈、緑=低下、グレー=横ばい。東京都教育委員会データより編集部作成
グラフの右上が「本物の加熱」ゾーンです。該当するのは以下の8区。
- 千代田区(+8.4pt)・北区(+5.4pt)が突出して大きい上昇幅
- 次いで目黒区(+3.6pt)・新宿区(+3.1pt)・中野区(+3.0pt)
- 江東区・杉並区(各+2.9pt)・港区(+2.4pt)が続きます
残りの15区は「横ばい」か「低下」です。中学受験ブームは23区全体に広がっているのではなく、特定の区に集中していることがデータからわかります。
北区で起きている「静かな変化」
8区の中で特に興味深いのは北区です。平均年収は23区の下位グループ(約400万円前後)ですが、進学率は+5.4ポイントの急上昇。赤羽駅や十条駅周辺の再開発で子育て世帯の流入が進み、「住居費を抑えつつ中学受験に挑む」ファミリーが増えているようです。
公立中学への進学率は5年間で78.7%→71.5%と7.2ポイント低下で、23区中最大の「公立離れ」。文京区や港区のような「もともと受験が当たり前の区」ではなく、北区のような「これまで公立中学がスタンダードだった区」で急速に受験文化が広がっている、という変化が起きています。
下位グループでは二極化が進んでいます
一方、下位3区(葛飾・足立・江戸川)はいずれも進学率が低下しています。葛飾区は-1.8ポイントで23区中最大の低下幅。板橋区が+1.6ポイントで着実に伸ばしているのとは対照的です。
この二極化の背景には「塾へのアクセスの差」があると考えています。
- SAPIX・四谷大塚・早稲田アカデミー等の大手中学受験塾の教室は、都心〜城南〜城西エリアに集中しています
- 城東エリア(葛飾・足立・江戸川)では教室が少なく、物理的に通いにくい
- つまり中学受験率は「住んでいる区の教育文化」だけでなく、「お子さんが通える範囲に塾があるかどうか」にも左右されているということです
「率」と「実数」で見ると、ランキングがひっくり返ります
ここまで「進学率」で見てきましたが、私立中学に進学した子どもの「実数」で並べ替えると、まったく違う景色が見えてきます。
東京都教育委員会「令和7年度 公立学校統計調査報告書」より編集部作成
- 率の1位は文京区(849人)ですが、実数の1位は世田谷区(2,192人)。文京区の2.6倍です
- 実数の上位には杉並区(1,157人)・江東区(1,145人)・大田区(1,011人)など、率では中位〜下位の区が並びます
お子さんの環境選びの観点では、「率」と「実数」のどちらを重視するかで見方が変わります。
- 「受験するのが普通」という環境がほしいなら、率が高い区。クラスの多くが受験するので、お子さんも自然と勉強する雰囲気になりやすい
- 同じ志望校を目指す友達が多い環境がほしいなら、実数が多い区。塾のクラスが充実し、情報交換もしやすい
どちらが正解ということではなく、ご家庭の方針やお子さんの性格に合わせて選んでいただけたらと思います。
東京都全体では「20%の壁」に当たった可能性があります
東京都教育委員会「公立学校統計調査報告書」各年度版より編集部作成。H22=平成22年度〜R6=令和6年度。
東京都全体の私立中学進学率は15年間で16.4%→20.1%と上がり続け、令和5年度に初めて20%を超えました。「5人に1人が私立中学に進学する」時代です。
しかし令和6年度は19.9%とわずかに低下しています。この「20%の壁」が一時的なものなのか、ブームの転換点なのかはまだ断言できませんが、注意しておきたいポイントが3つあります。
- 都外(神奈川・千葉・埼玉)の私立中学への進学者は5年で約1.5倍に増加しています。都内の率が下がっても、中学受験をする家庭の総数はまだ増えている可能性があります
- 一方で、文京区の進学率が頭打ち、下位グループで低下に転じているなど、「上位区は飽和に近づき、下位区では伸びが止まっている」という天井感は出始めています
- 令和7〜8年度のデータで同じ傾向が続くかどうかが判断の分かれ目。現時点では「転換点の可能性がある」という段階です
今すぐ中学受験を検討しているご家庭にとっては、「ブームが終わるかどうか」よりも「自分の住んでいる区の状況がどうなっているか」の方が大事です。次のセクションで23区すべてのデータを掲載しているので、お住まいの区の推移を確認してみてください。
23区 私立中学進学率の5年推移(全区データ)
最後に、23区すべての5年推移データを掲載します。右端のミニグラフで各区のトレンドが一目でわかるようにしました。お住まいの区や検討中のエリアの推移をチェックしてみてくださいね。
| 順位 | 区 | R2 | R3 | R4 | R5 | R6 | 変動 | 推移 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 文京区 | 47.4% | 49.0% | 49.5% | 48.2% | 48.5% | +1.1 | |
| 2 | 千代田区 | 35.8% | 37.5% | 37.5% | 40.7% | 44.1% | +8.4 | |
| 3 | 港区 | 39.5% | 41.5% | 42.5% | 44.9% | 41.9% | +2.4 | |
| 4 | 目黒区 | 38.2% | 39.6% | 39.4% | 39.5% | 41.8% | +3.6 | |
| 5 | 中央区 | 40.2% | 38.6% | 43.1% | 42.4% | 39.6% | -0.6 | |
| 6 | 渋谷区 | 36.1% | 34.6% | 36.5% | 40.9% | 36.3% | +0.3 | |
| 7 | 新宿区 | 32.9% | 34.9% | 34.9% | 36.9% | 36.0% | +3.1 | |
| 8 | 世田谷区 | 33.6% | 34.8% | 35.4% | 36.8% | 35.1% | +1.5 | |
| 9 | 品川区 | 32.9% | 32.1% | 31.1% | 35.1% | 35.0% | +2.1 | |
| 10 | 豊島区 | 31.1% | 33.2% | 32.1% | 35.9% | 32.3% | +1.2 | |
| 11 | 杉並区 | 29.1% | 30.8% | 32.7% | 31.8% | 32.0% | +2.9 | |
| 12 | 台東区 | 29.5% | 31.3% | 29.4% | 29.9% | 30.9% | +1.4 | |
| 13 | 江東区 | 25.8% | 28.5% | 27.4% | 26.4% | 28.7% | +2.9 | |
| 14 | 中野区 | 23.8% | 27.0% | 24.9% | 24.5% | 26.8% | +3.0 | |
| 15 | 北区 | 19.4% | 23.2% | 23.5% | 25.1% | 24.8% | +5.4 | |
| 16 | 荒川区 | 21.2% | 19.4% | 22.2% | 19.5% | 21.2% | ±0 | |
| 17 | 大田区 | 21.2% | 22.5% | 21.6% | 23.7% | 21.1% | -0.1 | |
| 18 | 板橋区 | 16.2% | 16.2% | 16.8% | 17.3% | 17.8% | +1.6 | |
| 19 | 墨田区 | 18.0% | 16.7% | 16.7% | 18.2% | 17.7% | -0.3 | |
| 20 | 練馬区 | 17.6% | 17.4% | 18.4% | 17.2% | 16.8% | -0.8 | |
| 21 | 葛飾区 | 13.8% | 13.8% | 14.3% | 12.3% | 12.0% | -1.8 | |
| 22 | 足立区 | 12.0% | 12.7% | 13.4% | 12.5% | 11.8% | -0.3 | |
| 23 | 江戸川区 | 11.4% | 10.1% | 11.5% | 11.7% | 10.6% | -0.8 |
R2=令和2年度(2021年3月卒業)〜R6=令和6年度(2025年3月卒業)。変動はR6-R2のポイント差。赤字は+3pt以上の上昇区、青字は-0.5pt以上の低下区。東京都教育委員会「公立学校統計調査報告書【進路状況調査編】」各年度版より編集部作成。
この記事のデータは、東京都教育委員会「公立学校統計調査報告書【進路状況調査編】」第1表「状況別卒業者数(小学校)」の令和2〜7年度版をもとにプルモ編集部が独自に集計・分析したものです。平均年収は総務省「課税標準額段階別所得割額等に関する調(令和5〜6年度分)」を参照しています。対象は公立小学校の卒業者のみで、私立・国立小学校の卒業者は含まれません。データの原典は東京都教育委員会のサイトで閲覧できます。進学率の高低は「教育の質」を直接示すものではありません。公立中学校にも優れた教育環境はあります。
